【第37回】新・千思万考~経営現場からの便り~ 掲載されました
グループホーム協会機関紙「ゆったり」に社長の文章が掲載されました。
グループホーム協会様よりお話があり、今回社長の文章が掲載されることになりました。「経営現場からの便り」と題されているものの、とくにテーマはないようだったので、社長は悩みつつ、ここ最近行ってきたことを網羅的に書いたようです。
テーマは「距離の解消」で三つの“距離”について以下のような文章を書いたところ、「ゆったり」の編集の方が上手に修正し掲載してくれたようです。
【第37回】新・千思万考~経営現場からの便り~ 「職員と一緒に歩みたいから」
社長就任の経緯
アサヒケアサービス株式会社は、2000年4月に京都市北区玄琢で「グループホーム安らぎ」を開設したことに始まる。現会長である吉谷正紀は、もともと設計会社を経営しており、人のために何かできることはないかと模索し、京都市で最初のグループホームを設立するに至った。20年の時を経て、後継者問題が表面化し、当時グループホームの管理者だった私は、吉谷氏との面談を重ねる中で、後継者の位置に就くことになった。会社全体についての理解が深まる前に、管理者から取締役へと昇進し、社長に就任した際に、ようやく会社全体を俯瞰することになった。
アサヒケアサービス株式会社は、3つのグループホーム、1つのデイサービス、居宅支援事業所から成り立っており、2つの大きな課題があった。一つは、施設が新築ではなく、元々は下宿や寮だったものを使用しており老朽化が進んでいたこと。もう一つは、施設が京都市と滋賀県に分散しており、事業所間の距離が遠く、月に一回しか管理者同士の会議がないため法人としての統一感が無いことだった。社長に就任し決意したことは、これらの問題を解決することだった。
①グループホーム安らぎ移転(地理的距離解決)
まず差し迫った問題として、グループホーム安らぎ(京都市北区)の老朽化があったため、その問題を解決する必要があった。
新築、改築等様々な選択肢があったが、老朽化に加えて事業所間の距離の問題を解決するためには拠点を決め、そこに集中することがベストだと考えた。
拠点としては新規事業として立ち上げる場合は人口動態、介護施設事業所調査含め地域のニーズについて掘り下げて決定すべきところであるが、既存事業所もあるため、そこを生かす選択を行った。自身が過去管理者をしていたグループホームさくら(京都市西京区)周辺地域に知見があったため、その地域を拠点として考え、グループホーム安らぎを西京区に移転することを決定した。
そして声を掛けていた不動産業者より、元々グループホームだった建物が西京区にあると情報を得た。グループホームさくらから車で8分、ユニット数も合致しており、理想的な物件だった。そこに移転を正式決定すると、長年働いている地元の職員からは非難の声があがった。「京都市で初めてできたグループホームを残してほしい。改築して綺麗にして運営することはできないか」という声もあがった。声を上げてくれた職員に対してはできうる限り説明したが、移転という事で通勤距離の問題もあり、職員の3分の1が退職した。
②サテライト型移行(精神的距離解決)
令和3年の介護報酬改定で、複数事業所で、人材を有効活用しながら、より利用者に身近な地域でサービス提供を可能とする観点から、サテライト型事業所の基準が創設された。
この制度のメリットは簡単に言うと人員基準の緩和にある。本体事業所とサテライト事業所では管理者が兼務可能であり、計画作成担当者についてはサテライト事業所において実務者研修修了者が行える。何か複雑な申請があるわけではなく、介護報酬等のデメリットもほぼない。京都市の介護ケア推進課に問い合わせたところ、既存の事業所をサテライト事業所にすることが可能という回答があったため、移転してきたグループホーム安らぎを本体事業所とし既存のグループホームさくらをサテライト事業所とする案を考えた。
上記で述べたようにサテライト型のメリットは、人員基準の緩和でもあるが、当社がサテライト型にした一番の目的は二つの事業所で提供する介護の標準化だった。
グループホーム安らぎを移転し、物理的距離を解決しても、職員の意識は変わらず、事業所ごとに独自の介護を提供している状況だった。意識改善をうたって、事業所に頻繁に顔を出しても、状況に変化はなかった。事業所は違っても、同じ理念の元、同じ介護を目指していることを職員に理解してもらう必要があった。
京都市においてサテライト型の前例は少なかったため、サテライト型にしてどのような形態にしたいか、資料を作り面談を行った。一番に訴えたことは、今まで事業所単位で凝り固まっていたケアを会社全体で統一化し、どの入居者様にも同じ質の高いケアを提供したい、ということだった。そのためには二つの事業所の管理者を一人に統一することで指示系統の明確化を図り、計画作成担当者がどちらの事業所も行き来し、ケアプランの様式、記入方法を統一する必要があることを訴えた。
サテライト型の許可がおり、管理者・計画作成担当者が両ホームを行き来するようになったため、格段に指示系統が明確になり、また私自身どちらにも頻繁に顔を出さなくても、管理者と計画作成担当者に二つのホームについて尋ねると、各施設の状況、課題が見えるようになった。
業務マニュアルの整備、均質化も図れてきていたが、いまだ解決できない問題もある。それはやはり一人ひとりの職員の意識改善だ。二つのホームで足並みをそろえて、介護の質の向上を図りたいが、職員は「他所は他所、内は内」とどうしても事業所単位にこだわってしまう。また事業所間の行き来が多くなると、感染拡大のリスクが増える。感染リスクに関しては、感染症BCPの周知と学習会を行うことで対応している。
地理的問題を解決し、そして職員の精神的距離の解決に向かって走りだしたが、別の問題について頭を悩ませることになった。
③デジタル化推進事業(情報的距離解決)
何か伝達事項があって、各管理者に連絡を取ろうと思っても、各管理者に連絡を取れる手段がばらばらだった。メールの返事が2日後、3日後なども多かった。はやく連絡したいときは電話での連絡になったが、それも根拠として立ち返れないため、口頭で伝えていた細部を忘れられてしまうこともあった。そして電話の場合、各管理者に同じ内容を伝えようと思った場合、何度も同じ話を繰り返すことになった。
変化し、会社として成長しようと思っても基盤がなければ、皆慣れている方法に戻ってしまう。距離の問題を解決しても、これほど情報伝達が不正確で遅い状況では何をしても変化のスピードは停滞すると考えた。これらの問題はおそらく、デジタル化によって解決するのだろうということはわかっても、IT、DX化などについては知見がほとんどなく、解決を後回しにしている状況だった。しかし危機感は募り、京都市のホームページでデジタル化推進について支援を受けることができると知ったことで、それに応募することになった。
支援内容は金銭面だけでなく、専門家(ITコーディネータ)派遣も含まれていた。専門家に現状を話したところ、すぐにグループウェアの導入を提案された。
まずグループウェアのメリットは組織間の情報共有、コミュニケーションの円滑化であること、そして機能としては社内外のメール、スケジュール管理、タスク管理ができると知り、当社の課題解決に最も適切なソフトウェアだと感じた。
導入後は圧倒的に情報速度が速まり、また管理者に一斉に周知できる機能もあったため、同じことを全員に周知し、それの進捗管理まで可能となった。
情報伝達の基盤が整い、事業所管のやり取りがスムーズになったことで、やっと当初に掲げた目標である「距離の解消」が解決できたのではないかと感じている。
最後に
ずっと現場が好きで、入居者様を笑顔にする施設づくりを目指していた。先代から大きなポジションを譲り受け、プレッシャーもあったが、社長という肩書があればもっとよく変えられるのではないか、という気持ちで引き受けた。就任した2020年6月から現在まで全力で努力し、やっと二つの課題が解決できた。
この4年間で身にしみて感じたことがある。一つ一つの小さな問題が大きな課題をつくりあげているのだ、ということだ。遠くを見ると足元が見えなくなってしまうように、小さな課題を放置すると、大きな課題の解決の妨げになる。これからも入居者様のことをよく観察し、そして職員の話を聞いて一歩一歩前に進みたいと感じている。
掲載号をもった社長